シンポジウム-ポストヘリコバクターピロリ時代における胃癌-
 冒頭、京都大学院の千葉教授による基調講演があり、家族性胃癌症例にはE-cadherinの変異が高率に認められることが示された。一般にH. pylori陰性の胃癌の特徴として上部、若年、胃型形質が多いわけであるが、その中の一つとして胃底腺型胃癌(GA-FG)の存在が順天堂大学の八尾教授に紹介された。Chief cellやMucous neck cellの形質をもった胃癌で、病理学的にもまだ癌と診断されるのが難しい領域であるという。また癌研有明病院の方からは、H. pylori陰性の印環細胞癌はL領域に多発することがあるが、増殖帯に限局していることが多く、H. pylori陽性の印環細胞癌はM領域に浸潤性胃癌として認められる傾向があることが示された。また浜松医大からは、遺伝性のびまん性胃癌(HDGC)では50%に乳癌の併存がみられたことや、家族性大腸腺腫症(FAP)でも13.7%に胃癌の発症が認められたことが示された。
 次にH. pylori除菌後の胃癌について、函館の加藤教授から指定講演があった。DU症例には少ないが、除菌後10年以上でも発症していることを強調され、その特徴として比較的小さな陥凹型で胃型形質のものが多く、PGI/II比<4.5はリスクファクターであることを報告された。また静岡がんセンターの方からは、除菌後3年未満の癌は発赤調でみつかることが多いのに対して、除菌後3年以上経過例では白色調になることが多く、また男性に多いこと、臨床と病理の間で腫瘍径に差が出る(内視鏡的にわかりにくい)ことが示された。最後に宮城がん検診センターから、胃癌の検出率はH. pylori陰性例からは0.001%であるのに対し、H. pylori陽性例では0.35%であること、H. pylori除菌後0.21%と検出率は下がるが、胃癌の抑制効果は43%であることが報告された。
 2013年2月H. pyloriに対する除菌治療の保険適応が認められて以来、胃癌死亡者数は着実に減少している。しかし、まだまだ日本人にとって胃癌の早期発見、早期治療が重要課題であること、そして何とか40歳までにH. pylori除菌に成功すればほぼ90%胃癌を抑制できることが確認されて、上村先生、三輪先生によるシンポジウムはしめくくられた。